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いにその様子を言えないのと同じで、日本近海は一般的には細かい泥の海底だが、一部の海域で海底に溶岩が露出していたり、崖があったり、といったところか。
この細かい泥は、マリンスノーと呼ばれる海洋中のプランクトンの遺骸が、雪のように何万年いや何億年絶え間なく降り積もったもので、その沈降速度は1日300m前後といわれている。投光器をつけると下降中の潜水船の覗き窓がら、真っ暗な夜、吹雪がしんしんと、しかし下から降ってくるように感じられる。マリンスノーという美しい名は、1950年代前半北海道大学の潜水調査船「くろしお」に乗った日本人研究者が名付け、世界的に認知された言葉だが、正に通語と思われる。そんな具合で日本近海の深海底は陸上に例えるなら、新雪の降り積もったスキー場に最も近い風景といえるだろう。
これとは違い太平洋のはるか遠く南米チリ沖東太平洋海膨は、日本近海のような海洋プレートの沈み込む所と違い、海底一面泥のほとんどない真新しい溶岩だらけの海底である。すなわち数千kmにも及ぶ長大な亀裂は年間最大16cmもの新しい海洋プレートが産まれつつある所で、短い周期で大量の溶岩(地上では想像できないくらいの量であろう)がいっきに吹き出し、大河のように流れたあとが観察される。
溶岩の川は、その勢いが強い場所では、海水に触れる表面の薄皮1枚残し、中は空洞である。その薄皮はシートブローと呼ばれ、平らなまるで舗装の終わったばかりの道路のように見える。しかし、道路と思って潜水船が着底しようとすると氷の張った池を長靴で踏んだときのようにひび割れ、我々はあわてて垂直スラスタを上・昇にしなければならないような所もある。また、溶岩の勢いが弱くなった所は、今度は枕状溶岩という丸い枕のような形状になった溶岩が形成される。私は、枕というより七輪の上で膨れた鏡開きの餅か、もっと規模の大きいものは石油基地のパイプラインのように感じるが、こちらの中も空洞でその大きさはだんだん小さくなりそして溶岩の川の最後ということになる。こちらの風景を例えるには、前述の餅かパイプライン以外地上の物ではちょっと説明できない。
潜水船の紹介に私はよくビデオ映像を使う。ボキャブラリーの少ない私の説明よりはるかに多くのことをビデオ映像は語り、そして伝えてくれるからだ。ただし、みなさんがよく目にする「しんかい2000」「しんかい6500」「ドルフィン3K」並びに就航したばかりだが「かいこう」等のビデオ映像は、海洋科学技術センターが運航した15年間の数有る潜航のダイジェストであることをお忘れなく。決して5分か10分に1度みなさんを唸らす珍しい光景が現れることはない。それどころか、通常の潜航ははっきり言って退屈である。確かにあらかじめ観察予定の対象物の位置がはっきりしている潜航ならそのようなことはないが、初めてのそれも十分な事前調査のなされていない海底の調査は、3時間から5時間ただ走りっぱなしの方が多いぐらいである。
海底での潜水船は、飛行機等で行われる有視界飛行と同じである。ここでは、とりあえず有視界航走とするが。もちろん前方数百mは、音波のレーダーであるソーナで監視はしているが、海底の小さい起伏までは表現できない。海底の視界は、駿河湾や相模湾で良く見えて5mから7m程度、悪いときは2m位で全く視界0mということすらある。陸岸から遠く離れ川や人間の手活の影響を受けにくくなった所でも10m程度か。前述の東太平洋海膨のような海底に堆積物のほとんどない溶岩地帯でも15m程度が限度と思われる。従って、潜水船は前方の障害物

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写真-2 シートブロー(EPR)

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写真-3 枕状溶岩(大西洋中央海嶺)

 

 

 

 

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